24日(土)の昼・文章講座の中継動画は、いまも視聴できます。2013/08/27 17:32

24日午後3時からおこなわれた昼・文章講座(担当・佐久間慶子チューター)は、内藤学生委員長らの尽力でネット中継されましたが、その動画をいまでも視聴できます。
次のアドレスをクリックしてみてください。

http://www.ustream.tv/recorded/37724407

(小原)

第3回 夜・文章講座のご案内。2013/08/27 21:11

夜・文章講座
小説の基礎篇Ⅳ―中編小説のパーツを考える
講師 葉山郁生(作家)

第3回 9月2日(月)午後6時30分~

○省略と後づけ・伏線のパターン 映像表現に多いパターンで、A→B→Cの出来事・事象系列をA→C→Bにする。A→Cが省略、Bが後づけ

教材=井上靖『氷壁』(新潮社)

  *  *  *  *

課題=教材作はザイル切断で山の友が死に、事件の全貌は、ミステリー展開になる。A→C→Bのパターンで、一行あけを二回含んだ簡略な出来事中心の小説の一節を書く

――今回課題文の案内――
 三回目のテキストは長編小説で、大きいストーリーの流れの上で、A→C→Bになっています。
 短期間で読めない方もおられると思いますので、O・ヘンリーの一短編「賢者の贈りもの」を例文として掲げておきます。
 O・ヘンリーの短編の中で、一番シンプルなA→C→Bパターンであるのは、「最後の一葉」です。落語のオチのパターンでもあります。
「賢者の贈りもの」は、三人称複数の視点に立っていますが、全体としてこのパターンです。妻にとり夫の行動がそうだし、夫の視点に立って読めば、妻の行動がこのパターンの例文になります。


 賢者の贈りもの

 みすぼらしい小さなソファに身を投げ出して、おいおい泣くよりほかに手はなかった。だからデラは泣いた。そうなると考えたくなる――人生は「むせび泣き」と「すすり泣き」と「微笑(ほほえ)み」から成り立っているのだと。なかでは「すすり泣き」がいちばん多くを占めているのだが。
 この家の主婦がだんだん落着いてむせび泣きからすすり泣きの段階に移ってくる間に、部屋を一瞥(いちべつ)しておこう。週八ドルの家具つきアパートだ。言語に絶するほどひどくはないにしても、浮浪者狩りの警官隊を用心してアパートと名づけただけの代物(しろもの)だ。
 階下の玄関口には、手紙などぜったいに来そうにない郵便受けと、人間の指ではどうなだめすかしても鳴らないベルがあった。そこにはまた「ジェイムズ・ディリンガム・ヤング」という名刺が貼(は)ってあった。
(…)
 デラは泣き終ると、頬にパフを当て、窓のそばに立って、灰色の猫が灰色の裏庭の灰色の塀の上を歩いているのをぼんやり眺めた。明日はクリスマスだった。それなのに、ジムに贈るプレゼントを買うのに、一ドル八十七セントしかなかった。ここ何ヵ月も一セントも無駄にしないで貯(た)めてきて、この結果だった。一週二十ドルでは、たいしたことができるはずはない。支出は予想を上まわった。支出とはいつもそういうものなのだ。ジムに、彼女のジムに、プレゼントを贈るのにたった一ドル八十七セントしかないなんて。なにかすばらしいものをとあれこれ考えて、彼女は何時間も幸福な時を過ごしてきたのに。なにか、すばらしい、めったにない、立派なものを――ジムに持ってもらう名誉に少しでもふさわしいものをと思って。
 部屋には窓と窓の間に壁掛けの鏡があった。週八ドルのアパートの鏡となると、読者には見当がおつきだろう。非常にやせた、身ごなしの敏捷(びんしょう)な人間なら、縦に断片的に映る姿をすばやくつなぎ合わせて、自分の全身像をかなり正確に見ることができるかもしれない。デラはやせていたので、その芸当を身につけていた。
 彼女はくるりと踵(きびす)を返して窓から離れると鏡の前に立った。眼はきらきら輝いていたが、顔色は二十秒前から蒼白になっていた。彼女はさっと髪を下に引っぱって、いっぱいにたらした。
 ところで、ジェイムズ・ディリンガム・ヤング夫妻には自慢の宝がふたつあった。ひとつは、ジムが父から、いや、祖父から、譲られた金時計だった。もうひとつはデラの髪だった。シバの女王が通風縦孔をへだてた向かい側の部屋に住んでいたなら、デラはいつか、髪を乾かすとき窓の外にたらして、女王の宝石や贈りものを顔色なからしめたことだろう。
(…)
 彼女が足をとめたところには、看板が出ていた。「かつら類一式 マダム・ソフロニイ」階段をかけあがると、はあはあ喘(あえ)ぎながら勇気をふるい起こした。大柄で、色の白すぎる、冷やかな感じのマダムは、「ソフロニイ」(「聡明」を意味するギリシャ語源の女性の名)らしくは見えなかった。
「私の髪を買ってくださる?」とデラは言った。
「髪は買いますよ」と女主人は答えた。「帽子をとって、ちょっと見せて」
 茶色の滝がさざ波を打って、流れ落ちた。
「二十ドルね」と女主人はなれた手つきで髪の房を持ちあげながら言った。
「ではすぐください」
 ああ、それからの二時間、時はばら色の翼(つばさ)にのって軽やかに飛んでいった。いや、そんな使い古しの比喩は忘れてほしい。彼女はジムヘのプレゼントを探して店から店へと歩きまわった。
(…)
 
 ジムは帰りが遅れたことはなかった。デラは鎖を二重に折って手に握りしめ、ジムがいつも入ってくるドアのそばのテーブルの端に腰をかけた。やがて一階の階段を昇ってくる足音が聞こえてきた。デラは一瞬青くなった。彼女は日頃、日常のつまらないことにも口のなかで短いお祈りを唱(とな)える癖があったが、このときは低く声に出した。「どうか神様、あの人にいまでも私を美しいと思わせてください」
 ドアが開いて、ジムが入ってきて、ドアを閉めた。やせて、とても真剣な顔をしていた。かわいそうに、彼はまだほんの二十二歳だった――それでいて家庭の重荷を背負わされているなんて。新しいオーバーもいるし、手袋もなかった。
 ジムは部屋に入るなり、鶉(うずら)の匂いをかぎつけたセッター犬のようにぴたりと動かなくなってしまった。眼はじっとデラに注がれ、そしてそこにはデラに読みとれない表情があった。それが彼女には恐(こわ)かった。怒りでも、驚きでも、不満でもなく、恐怖でもなかった。彼女が覚悟していたどんな表情でもなかった。彼はそんな奇妙な表情を浮かべて、ただじっとデラをみつめていた。
 デラはよろけるようにテーブルを離れ、彼の方に歩み寄った。
「ジム」と彼女は叫んだ。「そんな眼で私を見ないで。私が髪を切って売ったのは、あなたにプレゼントもしないでクリスマスを過ごすなんて、できなかったからなのよ。また伸びるわ――怒らないでしょう? 仕方なかったのよ。私の髪は伸びがとても早いわ。ジム、クリスマスおめでとうと言って! 楽しくしましょう。あなたには私がどんなにすてきな――どんなに美しく、どんなにすてきな――プレゼントを買ってきたか分らないでしょ」
「髪を切ってしまったのか?」とジムはようやく、どんなにけんめいに考えても明白な事実を理解できないかのように、言った。
(…)
 ジムはオーバーのポケットから包みをとり出して、テーブルの上にぽんと置いた。
「ぼくを誤解しないでくれ、デラ」と彼は言った。「髪を切ろうと、顔を剃(そ)ろうと、シャンプーしようと、そんなことで妻が好きでなくなるようなことはないさ。だがその包みを開けたら、ぼくがどうして最初呆然となったか、理由が分るよ」
 白い指がすばやく紐と紙をひきちぎった。それから我を忘れた歓声。だが、ああ、それが次の瞬間女性特有のヒステリックな涙と号泣(ごうきゅう)に早変りし、その部屋の主人はあらゆる手をつくして妻を慰めねばならなかった。
 そこには櫛(くし)がはいっていたのだ――デラがかねがねあこがれていた、ブロードウェイのウィンドーに飾ってあった、横髪と後ろ髪用のセットの櫛が。それは本物のべっ甲の、ふちに宝石をちりばめた、美しい櫛だった。売ってしまった、あの美しい髪にさすのに、似合いの色だった。高価なものだということは分っていたので、持てるとは夢にも思わないで、ただほしくてあこがれていただけだった。それがいま自分のものなのだ。そしてその待望の櫛を飾る房々とした髪はなくなっていたのだ。
 だが彼女は櫛をしっかと胸に抱きしめた。しばらくしてようやく顔をあげると、かすんだ眼で微笑しながら言った。「私の髪はとても早く伸びるわ、ジム」

  *  *  *  *

・教材作品は読んでおいてください。
・課題作(原稿用紙2枚《ワープロの場合、A4用紙をヨコにしてタテ書き印字》)を、講座日の3日前までに、担当講師宅へ郵送のこと。提出作品はコピーして、皆で読みあいます。(一般の方などで講師宅の住所がわからない場合は、事務局まで問い合わせてください)

6人目の秋期・新入生2013/08/27 21:46

10月6日開講の秋期新入生は6人目となりました。
その6番目の方は、茨城県土浦市の28歳男性で通教部・ライトノベルクラスへ。

●昨日(26日)の夜・詩の連続講座(担当・山田兼士チューター)の参加者は17名。富山市から、この講座のことをネットで知った一般の方の参加がありました。泊りがけとのことでした。

●9/8通教部スクーリングには、島根県出雲市、富山県小矢部市から、小説クラスやノンフィクションクラス見学の申込みがあります。

(小原)